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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)851号 判決 1994年4月14日

甲事件原告・乙事件被告

瀧澤久雄

ほか一名

甲事件被告・乙事件原告

神奈川工業有限会社

主文

一  平成五年(ワ)第八五一号事件原告らの別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく同事件被告に対する損害賠償債務は二一八万四六六〇円を超えて存在しないことを確認する。

二  平成五年(ワ)第一九四五号事件被告らは、同事件原告に対し、各自二一八万四六六〇円及びこれに対する平成四年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  平成五年(ワ)第八五一号事件原告らのその余の請求及び同年(ワ)第一九四五号事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、平成五年(ワ)第八五一号事件及び同年(ワ)第一九四五号事件を通じてこれを各自の負担とする。

五  右二は、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

(以下、甲事件原告・乙事件被告を「原告」、甲事件被告・乙事件原告を「被告」という。)

1  原告ら

【甲事件】

(一) 原告らの別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく被告に対する損害賠償債務は一五九万八一一〇円を超えて存在しないことを確認する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

【乙事件】

(一) 被告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

【甲事件】

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

【乙事件】

(一) 原告らは、被告に対し、各自三四四万五四二六円及びこれに対する平成四年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(三) 仮執行宣言

二  事案の概要

1  本件は、車両の追突事故による物的損害を巡るものであり、次の事実は当事者間に争いがない。

(一)  平成四年一二月二八日午後七時五〇分ころ、東京都千代田区九段南一丁目一番地先首都高速道路五号線上において、被告従業員小島直樹運転の被告所有普通自動車(横浜四六に九一〇三)(以下「被告車」という。)が交通渋滞のため一時停止中、後方から進行してきた原告瀧澤久雄(以下「原告瀧澤」という。)運転の大型貨物自動車(所沢一一か一八六四)に強く追突されて大破し、被害車は修理不能の損傷を被つた(以下、この事故を「本件事故」という。)。

(二)  本件事故は、原告瀧澤の前方不注視等の一方的重大な過失によつて発生したものであるところ、同原告は原告平和運輸有限会社(以下「原告会社」という。)の従業員であり、本件事故はその業務執行中の出来事であるから、原告瀧澤は民法七〇九条により、原告会社は民法七一五条により、それぞれ被告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

2  右事実に基づき、本件事故による被告の物的損害について、被告は、三四四万五四二六円であると主張して、原告らに対し、各自同金額とそれに対する本件事故日である平成四年一二月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求め(乙事件)、原告らは、これを争い、被告の損害は一五九万八一一〇円を超えて存在しないと主張してその旨の確認を求める(甲事件)。

3  右の損害額如何が本件の争点であり、これに関する双方の主張は次のとおりである。

(一)  被告

(1) 被告に生じた損害は次の三四四万五四二六円である。

<1> 被害車の全損による損害 一六九万二六九四円

被害車(トヨタハイラツクス四×四ピツクSSR)は、平成三年一二月二七日付け契約により、新車で、車両本体価格一七五万八〇〇〇円、エアコン・ステレオ等の付属品二三万二〇〇〇円、合計一九九万円で買い受け、平成四年一月二〇日に引渡しを受けて同日から使用を開始したものであり、本件事故時までの使用期間は一一か月と九日、走行キロ数は約一万五七〇〇キロメートル、事故に遭つたことはなく、外観無傷で、新車同様であつた。しかも、被害車は本件事故直前車検に出したばかりであつた。したがつて、被害車の時価の算定は、新品調達費用を損害とみて良い場合に準じて、それに近い扱いをすべきであり、減価償却については、定率法ではなく、定額法を用いるのが相当である。

右により、取得価格を一九九万円、使用期間を一年とし、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号)により耐用年数を六年として、経過年数に対応した減価償却費を定額法を用いて本件事故時の被害車の時価を算出すると、次の計算のとおり一六九万二六九四円となる。

一九九万円-{(一九九万円-一九万九〇〇〇円)×〇・一六六×一}=一六九万二六九四円

<2> 被害車の幌装置 一一万四一五九円

購入価格は一三万六九九〇円であり、時価は一一万四一五九円である。

<3> 自動車取得諸経費 三九万七二円

自動車取得税

九万七〇〇円

自動車重量税

一万三二〇〇円

自動車損害賠償責任保険料

一万八六五〇円

自動車税

二〇〇〇円

検査・登録手続代行費用

一万一六二〇円

車庫証明手続代行費用

八六〇〇円

納車費用

四一〇〇円

持込み車検費用

六二〇〇円

検査登録費用

二八八〇円

車庫証明

二六〇〇円

公正証書作成料

五八〇〇円

消費税

六万六一五円

割賦手数料

一六万三一〇七円

<4> 被害車に積載していた業務用品 六万三〇〇〇円

(品名)

(時価〔損害額〕)

(購入価格)

溶接機一個

三万円

一一万五九五三二円

攪拌機一個

一万二〇〇〇円

二万二六六〇円

墨つぼ一個

三〇〇〇円

七〇〇〇円

差し金一個

一〇〇〇円

三〇七八円

鋏一個

三〇〇〇円

七〇〇〇円

道具箱一個

一万円

二万円

作業服一着

二〇〇〇円

八六〇〇円

作業靴一足

二〇〇〇円

六〇〇〇円

<5> 車検費用 一六万七五〇一円

<6> 代車使用料 六一万八〇〇〇円

被害車は被告の業務上不可欠の自動車であつた。被告はそれが使用不能となつたため、代車の使用を余儀なくされ、右の代車使用料(平成五年一月一八日から同年六年一一日までの分)の損害を被つた。

<7> 弁護士費用 四〇万円

(2) 代車使用料についての原告らの主張に対する反論

被告は被害車と同じ型の車両(トヨタハイラツクスWキヤブ)を新たに購入して登録したが、それは次のような事情によるものである。すなわち、本件事故当時、被告は被害車(トヨタハイラツクスWキヤブ)を含む四台の車両(他の三台は、トヨタチエイサー、スプリンターバン、トヨタハイラツクス)を保有し、被害車を防水工事等の事業上必要な業務車両として使用していた。ところが、本件事故によつて被害車が使用不能となつたため、被告は平成五年一月一八日から代車を業務上利用することとしたが、同時に三か所ないし四か所の工事現場をもつことが多くなり、八名の作業員を各自宅から工事現場へ直行させる関係上、右の代車のほかに、もう一台、作業用機械、材料、残材等の積載に便利なトヨタハイラツクスWキヤブを増車する必要に迫られた。そこで、被告は、平成五年一月下旬ころ、神奈川トヨタ自動車株式会社にトヨタハイラツクスWキヤブの新車一台を注文し、同年三月三一日同会社から同車(登録番号は、横浜四六の五一六八)の引渡しを受けたものである。そして、被告は、同日からこれを使用しているが、同時に代車も併せて使用した。新車購入によつて代車使用の必要がなくなつたわけではない。

なお、被害車については、平成五年一月下旬ころ、神奈川トヨタ自動車株式会社に廃車を申し入れ、結局、同社が五万円でこれを引き取つて処分した。

(一)  原告ら

(1) 被告主張の損害について

<1> <1>は、金額を争う。被害車は全損であるから本件事故当時の時価が損害となるところ、時価は一四四万円とするのが相当であるから、被害車の全損による損害は一四四万円である。

<2> <2>は、不知。

<3> <3>は、否認する。被告主張の自動車取得諸経費は新車購入に伴う費用であるが、被害車は中古車であるから、本件において損害と評価される自動車取得経費は、被害車と同種同等の中古車を購入するために通常必要な経費に限られるべきであり、新車購入費用は含まれない。そして、通常、中古車については、必要な取得費用、特に重量税、自動車税、自賠責保険料等は既に市場価格に含まれている。

<4> <4>は、不知。

<5> <5>は、否認する。中古車は、車検切れでないことを前提として時価が決められており、車検費用はその市場価格の中で評価済みと考えられるから、独立の損害とはならない。

<6> <6>は、平成五年一月二八日以降の代車使用料については、否認する。被告は、平成五年一月二八日、被害車と全く同じ型の車両を新車登録し、同年三月二五日、被害車を売却している。したがつて、被告は、平成五年一月二八日以降は新たに購入した車両を利用しているのであつて、代車を使用する必要性は全くなかつた。

<7> <7>は、必要性を争う。

(2) 被告に生じた損害は、(1)<1>の一四四万円のほかは、被害車を事故現場から牽引するのに要したレツカー代二万二一五〇円と、仮に平成五年一月二八日以降も代車を使用したとしても、代車を必要とした期間は合計二二日間とするのが相当であるから、一日当たりの代車レンタル料金六一八〇円の二二日間分である一三万五九六〇円であり、一五九万八一一〇円を超えることはない。しかも、右のレツカー代と代車のレンタル料金は原告らにおいて支払済みである。なお、原告らが株式会社トヨタレンタリース神奈川に代車のレンタル料金として支払つたのは平成五年一月一八日から同年二月一八日までの分一二万三六〇〇円であるが、これは、代車を一か月借りると割引料金となり、右の二二日間の分より安くなるため、この期間に対応するものとして一か月分の料金を支払つたものである。

三  争点に対する判断

1  被告主張の順序に従い判断すると次のとおりである。

(一)  被害車の全損による損害

被害車がいわゆる全損の状態となつたことは弁論の全趣旨によつて明らかであるから、これによる被告の損害は、事故時の被害車の時価相当額と売却(処分)価格との差額であり、右の時価相当額の算定については、被害車と同一の車種・年式・型・同じような使用状態・走行距離等、同程度の自動車を中古車市場において取得し得るに要する価額を基準とするのが相当であるところ、成立に争いのない甲第一号証、証人鈴木佳幸の証言により成立を認める甲第一〇号証及び同証人の証言によると、事故当時の中古車市場において被害車と同程度の自動車の価額は一四四万円程度であつたことが認められる。したがつて、被害車の全損による損害は一四四万円と評価されるところ、被告はその後被害車が五万円で引き取られている旨を自陳しているから、原告らに請求し得べき損害としては右の一四四万円から五万円を差し引いた一三九万円と認めるのが相当である。

被告は、被害車はエアコン・ステレオ等の付属品二三万二〇〇〇円を含めて一九九万円で購入したもので、新車同様であつたとし、減価償却の方法による時価の算定を主張するが、採用しない。なお、エアコン・ステレオ等の付属品の点は、弁論の全趣旨により成立を認める乙第一・二号証により認められるが、社会通念上、被害車のような自動車にはエアコン・ステレオなどが装備されているのがむしろ普通と考えられるところであり、前記の一四四万円という価額にはこれらが含まれているとみることができるから、右の認定を動かすものとはいえない。

(二)  被害車の幌装置

弁論の全趣旨により成立を認める乙第五号証によると、被害車には前記の一九九万円とは別に購入価格一三万六九九〇円の幌装置がオプシヨンとして付けられていたことが認められるところ、それが被害車の全損に伴つて用をなさないものとなつたことは明らかであり、被告はこれによる損害を被つたものというべきである。弁論の全趣旨によると、右の損害は被告の主張する一一万四一五九円を下回らないと認めるのが相当である。

(三)  自動車取得諸経費

弁論の全趣旨により成立を認める乙第一ないし第四号証によると、被告は、被害車取得時に取得のための諸経費として主張のアないしセの各費用合計三九万七二円を出捐したことが認められる。そして、右の出捐は、税金・自動車損害賠償責任保険料はもとより、納車費用等のうち自動車販売業者の報酬・手数料と思われる分や、売買代金を分割払いとしたことによると考えられる割賦手数料も、一般に、新車の取得に際して多くの場合に伴うものと考えられるから、その必要性・合理性を是認することができる。そして、それは被害車を通常予想される期間使用するための対価的性質を帯びたものといえるから、例えば、使用を始めた途端に追突されて全損となつたような場合には、その全額を損害とみることができる。しかし、一定期間使用後に全損となつた場合には、前記各費用には、例えば自動車取得税や納車費用など、取得時に予想される被害車の使用全期間を通じて一回限りのものと、自動車重量税などのようにそうでないものとがあるから、各費用の性質などを勘案して損害額を考えなければならない。この観点から検討すると、前掲乙第一・二号証及び弁論の全趣旨によれば、被害車は本件事故に至るまで約一年間使用されていたことが認められるから、被告主張のアないしセのうち、自動車重量税(イ)、自動車損害賠償責任保険料(ウ)、自動車税(エ)は、ほぼこの期間に対応するものとして既に対価的性質が償却されていることが明らかであり、これを損害とみることはできない。その余は、出捐に見合う使用がなかつたという意味でいわば未償却の状態にあつたというべきところ、右の使用期間と被害車の耐用年数は六年とされていること(弁論の全趣旨により認める。)を勘案すると、その合計額三五万六二二二円の約七割である二五万円をもつて本件事故による損害と認めるのが相当である。

(四)  被害車に積載していた業務用品

弁論の全趣旨により成立を認める乙第七ないし第一二号証、第一三号証の一ないし四及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故当時、被告主張の業務用品が被害車に積載されていたこと、本件事故によりそれが損傷を受け、被告は六万三〇〇〇円を下らない損害を被つたことが認められる。

(五)  車検費用

弁論の全趣旨により成立を認める乙第六号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、被告は被害車について平成四年一二月車検のための整備等を行い、その費用として一六万七五〇一円を出捐したことが認められる。被害車はこの出捐に見合うだけの使用をほとんどできないうちに本件事故に遭つたことになるから、右の金額は本件事故による損害と認めるのが相当である。

原告らは、被告主張の車検費用の損害性を争うが、それは同費用が被害車についてのものではないことを前提とする点において採用の限りでない。

(六)  代車使用料

前掲証人鈴木の証言、被告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は被害車の本件事故による使用不能のため業務上代車を必要とし、いわゆる代車使用料の損害を被つたことが明らかであり、また、被告は、平成五年一月一八日から原告ら側から提供された代車を、同年六月一一日までの間、これを占有下において使用していたことが認められる。しかし、成立に争いのない甲第六号証の一・二、第九号証及び調査嘱託の結果によると、被告は本件事故後被害車と同じ型の車両を購入して平成五年二月下旬ころからはこれを使用していたと認められること、さらには、被告代表者本人尋問の結果によれば、被告の事業内容及び規模の程度は本件事故の前後を通じて格別に変わりはないところ、被告が右の車両の購入・使用にもかかわらず、なお代車の占有・使用を続けていたのは、これを使用しなければならない業務上の必要よりは、損害賠償の話が早く進むことを慮つてのゆえの殊更のものにすぎないと認められること等の事情を考えると、右の占有・使用の全期間について代車使用の必要を認めることはできず、その他一般社会通念に照らすならば、本件事故による損害としての代車使用料はせいぜい平成五年一月一八日から一か月間の限度でこれを認めるのが相当というべきである。しかるところ、成立に争いのない甲第三号証の二及び弁論の全趣旨によれば、右の期間に見合う代車使用料は既に原告ら側において支払済みであることが明らかである。

したがつて、被告の代車使用料の主張は採用できない。

(七)  弁護士費用

右(一)ないし(六)により被告が原告らに請求し得べき損害額等、諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は二〇万円をもつて相当と認める。

2  以上のとおりであるから、本件事故による被告の物的損害は二一八万四六六〇円である。

四  右の次第で、原告らの請求は、別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく原告らの被告に対する損害賠償債務(なお、念のため付言すると、右債務は物的損害に係るものである。)が二一八万四六六〇円を超えて存在しないことの確認を求める限度において理由があり、その余は失当である。また、被告の請求は、二一八万四六六〇円とこれに対する本件事故日である平成四年一二月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がありその余は失当である。よつて、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根元眞)

交通事故目録

一 日時 平成四年一二月二八日午後七時五〇分ころ

二 場所 東京都千代田区九段南一―一 首都高速道路五号線上

三 加害車 原告瀧澤運転の大型貨物自動車(所沢一一か一八六四)

四 被害車 訴外小島直樹運転の普通乗用自動車(横浜四六に九一〇三)

五 事故態様 加害車が被害車に追突

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